16世紀のフランス人は(たぶんその後の時代も)自分の妻を褒めちぎった。
 「愚妻」などとへりくだったりしない。他人に向かっても恥ずかしいほど自慢した。
 乳房は「赤いイチゴで飾られた素晴らしい手まり」「念入りに作られた白い腿」妻の陰毛ですら、自慢の対象となった。
「女の体を可愛らしく飾る、黄金色の、ちぢれた絹のような産毛」

 中世ドイツの卑猥な民謡に「白い野バラ」という作品があるが、笑えるというか、かなりシュールな内容である。

「この世には不思議なことがたくさん起こりますが、世間の人はそんなこと、信じようとしません。」
 これはホントの話ですよ?で、物語は始まる。

 あるところに1人の若い娘がいて、白い野バラを大切に育てていた。
「ものを言えない唖(おし)の口に、ある植物と入れますと、うまくしゃべったり、話をしたりするという、そういう力を持った植物がこの世にあるということは、世間の人がよくご存じです。」
 その通り、娘がいつものように花の世話をしようとしゃがんだところ、魔法の草が股間に入り込み、あら不思議、娘の股間がモゾモゾしたかと思うと、女性の秘所であるアソコがしゃべり始めたのである。

「あなたはあなたの体の中に、立派な部屋を持っておられます。でも、私に対して、感謝も好意も示されませんわ。」

 娘はびっくりした。
「私がおまえの声を聞くなんて初めてだ!」

 アソコは娘が大事に扱ってくれないのを、怒っている様子だった。
「男の人がどこでもあなたに言い寄るのは、私というものがあるおかげですわ!あなたが万が一私を失われたなら、あなたの値打ちなど無くなってしまうでしょう。」

 娘も怒って、アソコに言い返した。
「男の人があたしの言い寄るのはおまえのおかげだって?そんなの信じられないわ。男の人は私を美しいと思うからよ。私の顔が見たい、私に奉仕したいって、たえず噂するのを私は聞いている。誰がおまえなんか褒めるだろうか。おまえの顔はどす黒く、おまけに毛深く、お腹の下に大きな口を開けている。もし男の人におまえの顔を見せねばならないなら、恥ずかしくて穴にでも入りたいわ。」

 するとアソコは「怒りのためにちぢれ毛を逆立てて」
「私のどす黒さはいやらしいものではありません!。その色からいって、男の人には気持ちがいいものです!。私はどす黒く、おまけに毛深く、お腹の下に大きな口を開いています。それが私の姿でしょうよ。ご主人様、あなたの顔はなるほどバラ色でいきいきしています。しかし全ては私あってのあなたでございますわ。」

 娘は股間をのぞき込んで、言い返した。
「憎らしい!いい加減にお黙り。まるで海の怪物みたいに毛深い呪われた黒いお化け!おまえは何て嫌らしい形に作られたの。私からサッサと出てお行き!」

 そして両者は喧嘩のあげく、アソコは娘から出て行ってしまった。
 娘はせいせいして、いつも自分を口説いている男のところへ行き、アソコが出ていったことを話した。
 男はがっかりして、世間に言いふらした。娘は「アソコのないヤツ」だと国中の笑い者になった。
 一方、出ていったアソコの方はというと、いつもガマガエルと間違われて踏んづけられたり、石を投げられたり、自分の姿を見てもらおうと男性の側に行くと、蹴飛ばされる有様だった。
 アソコは軽率に出てきたことを嘆き、娘は何とかしてアソコにもどってきて欲しいと思った。
 両者は野原でバッタリ出会い、懐かしさのあまり抱き合って、再会を喜んだ。

「そこで娘さんに忠告しました。アソコは粗末にしてはなりません。私(語り手)は娘さんとアソコに頼まれましたので、元の場所に戻してあげました。」(ハーゲン「冒険全集」より中世ドイツ民話「白いのバラ」)

 庶民はアソコについて語ってニンマリしていられたが、高貴な身分ともなると、そんな単純な事では興奮しなくなるらしい。前述のブラントームの書き記した噂話によれば、アンリ2世王妃のカトリーヌ・ド・メディシスは、美しい侍女たちを裸にして眺めては、四つんばいにしてお尻を叩いたという。ある時はドレスを着たままの侍女のお尻だけを露出させ、平手で叩いたりした。やがてそれでは飽き足らなくなり、鞭で叩くようになった。
 ブラントームによれば、カトリーヌは子供の頃母親に鞭で叩かれるなどの虐待を受け、それが原因で他人を叩くことに快感を覚えるようになったという。
 しかし、カトリーヌの実母マドレーヌ・ド・ラ・トゥールは出産後すぐに亡くなっているので、この話は眉唾か、または養育係の乳母との話だったのかもしれない。

 カトリーヌには他にも変質的な噂が多い。
 夫のアンリ2世にはディアンヌ・ド・ポワチエという年上の愛人がいた。
 カトリーヌは何故ディアンヌが夫を夢中にさせるのか知りたくて、わざわざディアンヌの部屋の天井裏に忍び込み、天井に穴をあけ、2人が絡み合っている様子を観察したと伝えられている。
 そんな忍者のような真似が気づかれずにできたかどうか、疑問である。

 

同名のギリシャ女神ディアンヌを模したディアンヌ・ド・ポワチエ/フォンテーヌブロー派/ルーブル美術館蔵

 
参考資料
風俗の歴史 フックス著 光文社 
歴史の中の女たち 高階秀爾著 文芸春秋社
ダーム・ギャラント艶婦伝 ブラントーム 河出書房

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