牡蠣について
フランス王フランソワ1世(1494年~1547年)の母后が、ある日生ガキを食べていたら、中に真珠があることに気付かず飲み込んでしまった。
しばらくして妊娠していることがわかり、産まれた王女に「マルグリット(真珠)」と名付けたという。
こんな具合に昔からフランス人は上も下もカキが大好きだった。
ヨーロッパではローマ時代からカキの保存法があったらしく、ローマ皇帝も好んで食べたという。
私が無知なのか史実なのかは知らないが、江戸時代にカキを食っていたという話は聞いたことがない。江戸庶民はカキを食べなかったのか・・。
貝類は当たりやすいのに、革命期のパリっ子は真冬の名物としてカキを買い求めた。
ノルマンディー地方から船便で届いたものをセーヌの小舟に乗せて、大声で岸に向かって呼びかけたという。
「カキだよ~ 船においで~ 」
行くと、売り子の女が目の前でナイフを使って器用に殻をこじ開け、2,3個コッソリ誤魔化しながら渡してくれる。
現代のパリのレストランでは生ガキにレモンをかけ、バターソースで洗うようにして食べている。この時代も食べ方に大差があったとも思えない。
大きな違いといえば、カキを食べる時の飲み物。普通はワインだと思うが、当時は熱いミルクと一緒に食べると消化吸収によいとされた。
貴婦人達の間では、カキを食べるため専用のフォークが流行ったという。
フォークの反対側にカキをはがすナイフが付いている、銀製品だ。そういうお洒落な小道具を持ち歩いて、上品にカキを食したのだろう。
ノルマンディー地方ではすでに18世紀からカキの養殖場があった。
そして漁民の間では、いかに広い場所を確保するかで熾烈な争いを繰り広げていた。カキはそれだけ人気があったのだ。
ただし「セーヌに氷が張る前」つまり11月になる前は危険だという認識があった。
エッセイスト・メルシェは「10月中に売りに来るカキ売りの声は三途の川の渡し船の声」と書いている。