昭和43年度から、文化庁主催で、優秀な芸術家を海外留学させる「文化庁芸術家在外研修」がありました。
 帰国した作家は「文化庁メディア芸術祭」やDOMONI明日展などで、作品発表を行ってきました。
 主に絵画、映像メディア・アート、音楽などに限られていましたが、昨年度より演劇部門も加わることとなりました

 ところで、この「文化庁芸術家在外研修」、40年の歴史があるのに、まだ2000名強しか選ばれた人がいません。
 まさに芸術界のエリート。そんな選ばれた方々の今年の演目は、フリドリッヒ・シラー原作、ピーター・オズワルド脚本の史劇、囚われのスコットランド女王メアリーと、英国女王エリザベスの物語です。

 今回私も時代考証に参加させていただいた関係で、初演の舞台を見ることができました。
 最前列のお席で見やすいこと(ヒャホー)、関係者の方々には厚く御礼申し上げます。
 また、協力者に名前をのせていただいて光栄です。


 舞台上には、廊下を背に並べられたイス、棺のような台、宙に浮いたギロチン、柱・・オープニングから乳母ハンナ(有希九美)の鋭い悲鳴、斧で箱をたたき割る男といったショッキングさと殺伐さで、見る者を釘付けにします。
 そこに白い蝶々のようなメアリー(平栗あつみ)と意地悪バーリー卿(奥村洋治)が現れ、憎悪と鬱屈と嫌みの混じり合うスピーディーな会話が展開していきます。
 派手でもなく、地味でもなく、押さえた上質な演技が光ります。
 慣れない人がやったら大仰になる描写も「芝居がかった」感じがしません。
「うんまいなぁ、この人たち」と内心うなづきながら、一瞬も目が離せませんでした。

 私はカトリックじゃないんだけど、モーティマー(小森創介)が熱烈に語る宗教画や大聖堂の美しさにノートルダム寺院を思い出し(そういえばメアリーが最初に結婚式をあげたのはノートルダムでしたっけ)それに比べてホントにプロテスタント系寺院は味気なかったなあ・・と

 この設定でのメアリーは、「たまには暗くなれよ」といいたくなるほど陽気なキャラクターで、見る男たちをたまらなく惹き付ける魔性の女でもあります。
 一方、炎のように赤いドレスをまとったエリザベス(田島令子)は時に怒りっぽく、またメアリーからの手紙を読んで涙するような、気分的に浮き沈みの激しいキャラクターとして描かれます。
 男達はメアリーの魔性に蠱惑され、エリザベスの権力を恐れ、裏切りに裏切りにそのまた裏切り寝返りに寝返りが重なって、もう何だかよくわからない状況になります。

 いつも神様に懺悔し、自分の罪をリセットしては同じ過ちをくり返すメアリー。
 メアリーは本当に自分を愛したことがあるのだろうか?
 一度でも他人を愛したことがあるのだろうか?と、疑問が浮かんできます。
 一方エリザベスは、他人の思惑や評判に振り回され、悲鳴を上げています。

 そんな中、しだいに現実逃避していくメアリーと、不信感に混乱していくエリザベス
 行き違いと嫉妬から、ついに2人を悲劇が襲います。
 陰謀で「ついうっかり」顔を合わせてしまった2人は、激しく罵り合います。
 怒ったエリザベスは、メアリーの処刑同意書にサインしてしまうのです。

 劇は英国史に興味がなくても、十分わかりやすく、面白いです。
 エリザベスは憎まれ役&滑稽で、メアリーとのコントラストがはっきりしていてわかりやすいです。
 休憩時間15分を挟んで3時間の劇ですが、全然時間の長さを感じさせません。
 また私の提供させていただいた考証資料も簡潔にほどよく、進行の邪魔にならない、ごく自然な形で取り入れられていて、演出者のセンスの良さを随所に感じました。

 モーティマーは一歩間違えると騒々しくなってしまう難しい役だと思うけれど、小森さんの演技は深みがあって、メアリーの持つ蠱惑的雰囲気を浮き彫りにしています。
 メアリーを、「可愛くて可哀相な存在以上」に演じてみせる平栗さん、さすが一流です。
 私は見終えて、幸せいっぱい♪という気分でした。
 ひさしぶりにいいものを見せていただきました。

 公演は1日から4日まで、と比較的短いが心残りです。
 文化庁さん、せめて一ヶ月はやって下さいな
(というか、また同じキャストでやってほしいです)

 関係者の方々に、この場を借りて御礼申し上げます&お疲れ様でした

(文化庁芸術家在外研修者一覧/敬称略)
提供 日本劇団協議会http://www.gekidankyo.or.jp/sys/new.php?com=list
メアリー/平栗あつみ(2005年度文化庁派遣)
ボウレット/小宮孝泰(2004年度文化庁派遣)
モーティマー/小森創介(2005年度文化庁派遣)
演出/古城十忍(2004年度文化庁派遣)
/伊藤雅子(2003年度文化庁派遣)
照明/黒尾芳昭(2005年度文化庁派遣)